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広島地方裁判所 昭和27年(行)17号 判決

原告 日本国有鉄道

被告 広島県知事

訴訟代理人 星野民雄 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が、別紙第一目録記載の土地について昭和二十七年四月五日附で、第二目録記載の土地について同月十六日附で、第三目録記載の土地について同年三月二十八日附で、第四目録記載の土地について同年四月四日附で、第五目録記載の土地について同月三日附で、第六目録記載の土地について同月二日附で、それぞれなした買収処分は、いずれも無効であることを確認する。応島県農業委員会が昭和二十七年二月二十九日附を以てなした、別紙第七目録記載の土地の買収計画に対する原告の訴願を棄却する旨の裁決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

一、別紙目録記載の土地は東京下関間新幹線鉄道増設のため昭和十七年中に国(鉄道省)が原所有者から買収し、爾来鉄道用地とし鉄道省が管理して来た国有財産であつたところ、昭和二十四年六月一日日本国有鉄道法(以下国鉄法と略称する。)の施行により原告がこれを承継取得したものである。

二、その後右土地に対しては地元各町村農業委員会において自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第三条第五項第四号によりこれを法人所有の小作地として買収する旨の買収計画が定められ、その中別紙第一乃至第六目録記載の土地については、被告が右買収計画に基いてそれぞれ請求の趣旨記載の日附の買収令書を原告に交付してこれを買収し、又第七目録記載の土地については、大野町農業委員会が昭和二十六年十二月三十一日樹立した買収計画に対し原告が異議の申立をしたところ、同委員会は昭和二十七年一月二十九日附を以て異議を棄却する旨の決定をしたので、更に原告から広島県農業委員会に訴願したが、同委員会も亦同年二月二十九日附を以て訴願を棄却する旨の裁決をした。

三、しかしながら右買収計画及びこれに基いてなされた買収処分並びに買収計画を維持して原告の訴願を棄却した裁決(以下右各処分を本件買収手続と略称する。)は次のような理由により違法である。

〈1〉  本件土地は元農地であつたが、前記のように国が東京下関間新幹線鉄道増設計画に基き買収して以来企業用財産たる鉄道用地としてこれを管理し、原告が右事業計画と共にこれを承継したものである。そうして右計画に基く工事は戦争の苛烈化に伴い資材労力の調達が不可能になつたため、その一部を施行したのみで一時中止のやむなきに至り、終戦後も国家財政の都合上その工事継続が見送られて来たが、右新幹線増設による輸送力の拡充は今日右計画樹立当時よりも却つて強く要望されているところであつて、国の財政事情の如何によつては明日にでも引続き工事に着手し得るよう、右計画は厳として維持せられている。ただ戦時中右のような事情のため本件土地に対しては工事の着手に至らず、且つ食糧増産の要請も強かつた折柄、附近農民に対し、鉄道用地としての用途及び使用の目的を妨げない限度において一時的にこれを使用して耕作することが承認せられたが、それについては使用期間を一年とし、事情に応じて更新するも、工事施行上必要とする場合は何時にても使用の承認を取消し得るものと定められていた。そうして原告が右土地を承継した後もこの使用関係がそのまま継続せられて来た。従つて

(イ)  本件土地は自創法に所謂農地に該当しないから、同法による買収の対象とはなり得ない。即ち、同法において農地とは耕作の目的に供される土地をいうのであるから、単に土地が耕作に供せられている事実のみによつて農地と断ずることはできず、所有者の主観においても土地を耕作に供する目的意思の存することを要するところ、本件土地は、国の買収によりその利用目的を鉄道用地に変更され、その利用目的のまま原告に承継されたものであるから、国の買収以後は農地ではなく、偶々前記のような事情から耕作が行われていたことによつて、その性格が左右せられるものではない。

(ロ)  又本件土地が仮に農地であるとしても、右は同法に所謂小作地ではないから、この意味でも同法第三条による買収の対象とはならない。即ち同法に所謂小作地とは、耕作の業務を営む者が賃借権・使用貸借による権利・永小作権・地上権又は質権に基きその業務の目的に供している農地をいうところ、本件土地に対する耕作は、前記のような事情の下における一時的使用の承認に基くものであつて、耕作者との間に賃貸借等の私法上の契約を結んだものではなく、又使用料も、国有財産法の規定(第十九条・第二十三条)により貸付料を納付させるべきものと定められていた関係上、同法の適用を受けていた当時納入させていた低額の使用料を、そのまま本件買収手続当時まで受取つていたもので、性質上土地使用に対する経済的対価関係にあるものではないから、右土地を以て自創法上の小作地とすることは到底できない。

〈2〉  仮に本件土地が自創法に所謂農地であるとしても、国鉄法第六十三条により法令の適用上原告即ち国鉄は国と、又同総裁は各省各庁の長とみなされるから、原告所有農地を自作農創設の目的に供するためには自創法施行令第十二条に基き国鉄総裁の認可を得なければならない。蓋し、国鉄は従前純然たる国家行政機関によつて運営されていた国有鉄道事業を承継して能率的な運営によりこれを発展せしめ、もつて公共の福祉の増進に寄与するという国家的目的の下に特に法律によつて設立された公法上の法人であつて、国とは一応別個の法人格を有するとはいえ、その資本を政府の全額出資にまつこと(第五条)・内閣の任命する経営委員会の指揮統制に服すること(第九条以下)・予算については国会の審議を必要とすること(第三十九条)・会計は会計検査院が検査すること(第五十条)・運輸大臣の監督に服すること(第五十二条)等の国鉄法上の諸規定に照しても明らかなように、完全国有の企業体であり、その実体において政府機関と何等撰ぶところはない。そうして同法第六十三条は、かかる国鉄の使命と性格にかんがみ、国鉄が一般私企業と同様の法規上の拘束を受けることはその能率的運営を著しく阻害する虞あるがために、国鉄を従来国がその事業を経営していたときと同様の法令適用上の地位に置くべく、「道路運送法・電気事業法・土地収用法・その他の法令(国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律及び財政法・会計法・国有財産法等国の会計を規律することを目的とする法令を除く。)の適用については、この法律又は別に定める法律をもつて別段の定をした場合を除くの外、日本国有鉄道を国と、日本国有鉄道総裁を主務大臣とみなす。」旨規定している。而して自創法は右国鉄法第六十三条が適用除外例として掲記している法令には該らないから、自創法上国鉄所有地は国有即ち政府所有地とみなされ、従つてこれを自作農創設の目的に供するためには、同法施行令第十二条の定めるところに従い、都道府県農業委員会が国鉄総裁の認可を受けた上で、市町村農業委員会の自作農創設の目的に供することを相当とする決定を承認することを要する。されば右国鉄総裁の認可を得ることなく、直ちに一般の法人所有地に対する買収手続によつた本件買収手続が違法無効なること論をまたない。

〈3〉  仮に然らずとするも、本件土地は自創法第三条第五項に所謂買収することを相当と認められるべき農地ではない。右土地は前記のように東京下関間新幹線鉄道増設計画の実施のために必要不可欠な鉄道用地であり、右計画は今日も維持せられ、その実施の必要性はむしろ増大している。そうして、自創法は昭和二十一年十二月十九日施行され、その買収の基準は原則として昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基くべく、又その買収は昭和二十三年十二月末日までに完了すべきものと定められていた法意に照せば、右の何れの時期においても国有企業用財産として買収の対象とならず、国鉄法施行により原告がこれを承継した後も、前記のように国の最高経営権に基く事業の用に供せられる土地たる性格において何等の変化もない本件土地の如きは、仮に自創法上法人所有農地と認め得べきものとしても、買収することを相当と認められるべき土地でないことは明らかである。

〈4〉  仮に然らずとするも、本件土地は前記のような客観的事情に徴して自創法第五条第五号に所謂近くその使用目的を変更することを相当とする農地であることは明らかである。しかも、運輸省管理当時、本件土地と一連関係にあつてその使用目的を同じくする兵庫県明石郡魚住村所在の土地につき兵庫県農地委員会から運輸大臣に対し自創法施行令第十二条による認可の申請をしたのに対し、運輸大臣は、昭和二十三年三月十日、前記新線増設計画が依然として維持せられ、継続工事中の過程にあり、右土地が右計画のために必要不可欠であるとして認可できない旨回答した事実は、被告及び関係農業委員会において諒知しており、又原告はその後も異議訴願或は直接口頭の申出により本件土地を必要とする右事情を繰返し明らかにしているのであるから、原告の申出がなくとも、当然前記自創法第五条第五号所定の近く使用目的を変更することを相当とする旨の指定がなされて買収の対象から除外されるべきであるにもかかわらず、右事情を無視して、関係農業委員会において右指定をなさず、本件買収計画を樹立し、被告も右計画に基き買収の挙に出たのは明らかに違法であると云わねばならない。

四、以上何れの理由によるも、本件買収計画及びこれに基いてなされた買収処分並びに買収計画を維持して原告の訴願を棄却した裁決には、重大且つ明白な違法の存すること明らかであるから、原告は右買収処分の無効確認及び裁決の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。なお被告は、広島県農業会議の設立に伴い、農業委員会法の一部を改正する法律(昭和二九年法律第一八五号)附則第二十六項により、それまで広島県農業委員会を被告としていた右裁決取消請求事件の訴訟を承継し、同事件についても当事者となつたものである。

以上のように述べた。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因事実に対する答弁として次のように述べた。

一、原告主張事実中前記一・二記載の事実はこれを認める。

二、本件土地は、国が鉄道用地として買収した後も現実に鉄道用地として使用せられた事実はなく、従前どうり農地として、それまで右土地を所有していた農民が、国及び国から右土地を承継した原告との間に一年毎に更新する契約を結び、一定の使用料を支払つて耕作を継続している。このように所有者の耕作に供せしめる意思に基いて現実の耕作が続けられていた以上、右土地が自創法上の農地であることに疑問の余地なく、単に土地所有者の該土地の入手目的や将来の使用意図のみにより農地たる性格が否定される理由はない。又、右土地の使用に関する耕作者と所有者との間の前記のような契約関係は私法上の賃貸借関係に他ならないから、本件土地が同法に所謂小作地であることも明らかである。

三、国鉄法第六十三条は、国鉄事業の性格と経営規模からみて、国鉄が一般私企業と同様な法令の拘束を受けるのは妥当でないので、国鉄に対して、国が直接経営していた場合と同様に、其の事業経営上の各種の取締法規の適用を排除し又は緩和するために必要な範囲において、国鉄が特別の地位に置かれるべきものとし、以て国鉄事業の能率的運営を確保せんとした技術的規定に他ならず、その適用には自ら一定の限界があり、同条に「この法律又は別に定める法律をもつて別段の定をした場合を除く」とされているのも、明文を以て同条の適用を排除した場合に限らず、国鉄法の他の規定に示された国鉄の基本的性格と積極的に牴触するような場合をも当然含む趣旨と解される。而して国鉄が国から完全に独立した法人であることは、従来純然たる官庁機構のもとに運営されていた国鉄事業の合理的能率的運営を図るため設立きれた国鉄の基本的性格であることはいうまでもないから、独立の権利義務の主体としての国鉄とこれに対する他の人格者としての国との相互の間の実体法上の法律関係を規制する法令が問題となるような場合には、国鉄を国とみなすことによつて右法令の適用を排除することはできない。そうして国が国鉄所有の農地を自作農創設のために取得しようとするのは、正に別個の権利義務の主体としての国鉄と国との間の実体法上の法律関係の規制が問題となる場合であるから、自創法上、国鉄法第六十三条により国鉄所有農地を直ちに国有とみることは到底許されない。即ち国鉄所有農地の取得については当然自創法上の買収手続による外はなく、従つて単なる官庁内部の手続にすぎない管理換の規定である同法施行令第十二条第十三条所定の手続による余地は全く存しないから、本件買収手続は何等違法でない。

四、原告の所謂東京下関間新幹線鉄道増設計画なるものは、当初主として軍事上の目的に基いて計画されたまま、原告主張のような事情によりその施行を見ないで終戦に至つたもので、戦争放棄後の我国においては、仮に再びこの計画を樹てるとしても根本的に再検討を要するところであり、現在右計画が維持せられ依然として継続工事中の過程にあるとは到底云えない。従つて右計画の故を以て本件土地が買収することを相当と認め得ない土地であるとは云えず、又近くその使用目的を変更することを相当とする農地として指定せられるべきものであるとも云えない。しかも原告自らも関係農業委員会に右指定乃至指定の承認方を申出た事実はないから、この点からするも本件買収手続を違法とする原告の主張は失当である。

五、以上何れの点よりするも、本件土地に対する買収計画及びそれに基いてなされた買収処分並びに右買収計画を維持した裁決には何等の違法もないから、原告の請求は理由がない。

以上のように述べた。

証拠〈省略〉

理由

一、別紙目録記載の土地は東京下関間新幹線鉄道増設計画に基いて昭和十七年中に国が原所有者から買収し、爾来鉄道用地として鉄道省(後に運輸省)が管理して来た国有財産であつたところ、昭和二十四年国鉄法の施行により原告がこれを承継取得したこと、及びその後右土地に対しては、地元各町村農業委員会において自創法第三条第五項第四号によりこれを法人所有の小作地として買収する旨の買収計画が定められ、その中第一乃至第六目録記載の土地については、何れも右買収計画に基き被告から原告に原告主張の日附の各買収令書が交付せられて買収処分がなされ、又第七目録記載の土地については、地元大野町農業委員会の定めた買収計画に対し原告から異議の由立をしたが棄却され、更に広島県農業委員会に対し訴願したが、同委員会も亦原告主張の日附を以て訴願を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。そこで原告が本件買収手続の違法である理由として主張する諸点につき順次判断する。

二、先ず、原告は本件土地は自創法に所謂農地ではなく、仮に農地であるとしても同法に所謂小作地ではないと主張する。しかしながら、本件土地が昭和十七年国により買収せられるまでは農地であり、前記のように国が鉄道用地として買収した後も、戦争の苛烈化及びそれに引続く戦後の国家事情により工事の着手を見るに至らず、国及び国から右土地を承継した原告は、引続き本件買収時に至るまで、附近農民に対し、一定の使用料を納付せしめ、使用期限を一年毎に更新して右土地の耕作を許容して来たことは当事者間に争いがない。このように土地所有者の承認の下に多年に亘り第三者による耕作が継続せられて来た土地が、自創法に所謂耕作の目的に供される土地として農地に該当することは明らかであり、右土地が鉄道増設計画に基いて買収され、鉄道用地として管理されて来たものであることによつて、その農地たる性質に消長を来すものではない。又右のような耕作関係は、他に特段の事情の認められない以上、所有者たる国乃至原告と耕作者たる農民との間の賃貸借乃至使用貸借契約に基く小作関係と認むべきものであるから本件土地が自創法に所謂小作地であることも否定できない。従つてこの点に関する原告の主張は理由がない。

三、又原告は、国鉄法第六十三条により法令の適用上国鉄は国と、国鉄総裁は主務大臣とみなきれることを理由に、原告の所有地を自作農創設の目的に供するためには、自創法施行令第十二条に則り国鉄総裁の認可を得なければならないから、右認可を得ていない本件買収手続は違法であると主張する。ところが自創法施行令第十二条は、その文理上極めて明白な如く、同令第十三条と共に、政府の所有に属する農地を自創法により売渡すべき農地とするための手続を規定したものである。即ち右両条によると、政府の所有に属する農地(自創法第十六条・自創法施行令第十四条により、政府の所有に帰すると同時に当然に自創法により売渡すべき農地となる旨規定されているものを除く。)は、市町村農業委員会がこれを自作農創設の目的に供することを相当とする旨の決定をなし、都道府県農業委員会が当該農地を所管する各省各庁の長の認可を得て右決定を承認することによつて、自作農創設の目的の下に売り渡すべき農地として農林大臣の管理する普通財産(旧雑種財産)たるべきものとなり、その結果、従来右農地を管理していた各省各庁の長は、右農地が行政財産(旧公共用財産・公用財産・営林財産)である場合にはその用途を廃止して普通財産とした上、右農地が農林大臣の所管に属しないものであるときは、農林大臣に対して当該農地の所管を移すべきものとされている。換言すれば右規定は、国有財産の中に、農林大臣の所管に属する普通財産の一種として、自作農創設の目的の下に売り渡すべき農地を設定する手続規定であり、従つて従来右農地が農林大臣の所管に属しなかつたものである場合については、本来国有財産法の規定に則つて行われるべき所管換(旧管理換)(農林大臣と右財産を所管する各省各庁の長及び大蔵大臣との間の協議の成立を要する。)の手続の特例を定めたものということができる。自創法施行令第十二条において、本来農地の売渡処分とは職掌上何等の関係もない、農林大臣以外の各省各庁の長の認可を必要とされている所以も、右規定がこのように本来農林大臣と各省各庁の長(及び大蔵大臣)との協議の成立の上に行われるべき国有財産の所管換の手続に代る特別手続を規定したものであるからに他ならない。従つてこの意味においては、同条は、同令第十三条と共に、国有財産の所管換に関する国有財産法の特則をなすものとして、同法と同様、実質上、国の会計を規律することを目的とする法令の一であるというべきものである。而して国鉄法第六十三条は、国鉄事業の高度の公共性に鑑み、道路運送法・電気事業法・土地収用法その他の法令の適用については国鉄を国と、国鉄総裁を主務大臣とみなす旨規定しているけれども、右については財政法・会計法・国有財産法等国の会計を規律することを目的とする法令は除外する旨規定しているから、国鉄所有農地を自作農創設の目的に供するについては、前記のような性格を有する自創法施行令第十二条・第十三条を適用し、政府所有農地の所管換の手続によることはできない。蓋し、国鉄に対しては右のように国有財産法が適用されないことは法の明記するところであり、従つて通常の場合には、国鉄の所有財産を政府の所有に移すにつき所管換の手続による余地はないのに、国鉄所有農地を自作農創設の目的に供するときに限つて所管換の手続によるべき理由は全くない。又、自創法施行令第十二条所定の農地を所管する各省各庁の長の認可が、前記のように、政府所有農地の所管換の手続の一環として要求されているものに他ならない以上、国鉄所有農地を買収する手続においても同条を適用乃至準用して国鉄総裁の認可を要するものとすることも、もとより根拠がない。従つて、原告所有の土地に対し、国鉄総裁の認可を得ることなく、通常の買収手続をすすめた本件買収手続を、自創法施行令第十二条に反するの故を以て違法とすることは全く理由がない。

四、更に原告は、以上の主張が認められず、本件土地が自創法上法人の所有する小作地と認められるべきものとしても、本件土地は同法第三条第五項に所謂買収することを相当と認められるべき土地でなないと主張し、又同法第五条第五号に所謂近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地に該当すること明らかであるから、右土地につき地元農業委員会は当然同号所定の指定をなすべきであり、右指定をしないでこれを買収の対象とした本件買収計画及びそれに基いてなされた買収処分は違法であるとも主張している。しかしながら、昭和十七年に国が右土地を買収する原因となつた東京下関間新幹線鉄道増設計画が重大国策として樹立された当時の諸般の国家事情は終戦に伴い根本的に変革された今日において、輸送力増強の必要はあるとはいえ、右計画をそのまま実施に移されることを期待することは、原告が国の広汎な統制監督の下におかれ、その予算は国会の審議を必要とするものであるだけに、原告の意図如何にかかわらず、少くとも近い将来については困難であると考えざるを得ない客観的事情にあることは、当裁判所に顕著なところである。そうして現に、当事者間に争いのないように、終戦後今日に至るまで、右鉄道増設計画について何等具体的な実施への動きは見られず、本件土地は前記のように引続き農耕の用に供されているのである。従つて本件土地が近い将来において現実に鉄道用地として利用される蓋然性が多いとは到底なし難く、又他に右土地を以て近く使用目的を変更することを相当とする農地であるとなすべき事情は何も認められないから、自創法第五条第五号の指定をなすことなく、右土地を買収の対象とした本件買収手続を以て違法の処分とすることはできない。又同法第三条第五項に「都道府県農業委員会又は市町村農業委員会が自作農の創設上政府において買収することを相当と認めたもの」と規定されているのは、同項各号に該当する農地を買収の対象とするか否かを所轄農業委員会の合目的的裁量に委ねた趣旨と解せられ、而して原告主張の如き、本件土地が前記鉄道増設計画に基いて買収され、国鉄法施行に至るまで国有財産たる鉄道用地として管理されて来たもので、原告がこれを承継した今日においても、右計画実施のためには必要不可欠な用地であるというような事情があるからというて、右土地の現況及び右鉄道増設計画の実施の可能性について前述したところに徴しても、本件土地を自作農の創設上政府において買収することを相当と認めた農業委員会の措置がその許された裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとはいえないことは、もとより明らかである。

五、そうすると、以上何れの点よりするも、本件買収手続を以て違法の処分とする原告の主張は理由がないことになるから原告の本訴請求は失当としてこれを棄却しなければならない。なお、昭和二十九年八月二十四日、農業委員会法の一部を改正する法律(昭和二九年法律第一八五号)附則第十三項第十六項に基き、広島県農業会議の設立が認可されて同会議が成立したことにより、同法附則第二十六項に則り、それまで広島県農業委員会を被告にしていた同委員会の裁決取消請求事件(本件の中第一二号事件〕の訴訟を本件被告即ち広島県知事が承継し、同事件についても当事者となつたことは、原告の昭和三十年五月十三日附訴状訂正の申立書に添付されている広島県報写(広島県告示第四五三号)により明らかである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 富田信夫 西俣信比古 横山長)

別紙物件目録〈省略〉

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